2014年11月11日

覇王の蛮勇を目の当たりにして、市井の民が思うこと。

11/7〜8に行われた、フィギュアスケートGPシリーズ第3戦『LEXUS Cup of China』。
男子シングル・フリースケーティングで起きた事故については、
多くの人が中継やニュースで目にしたことと思う。

 羽生 直前公式練習中に衝突…額から流血、表情うつろのなか治療へ(スポニチアネックス)
 http://www.sponichi.co.jp/sports/news/2014/11/08/kiji/K20141108009249520.html

この件について、思うところがいろいろ出てきたので、
書いておくことにする。



閻涵(ハンヤン)選手と、互いにほぼトップスピード状態で
激しくクラッシュした後、顎とこめかみから血を滴らせ、
焦点の定まらない眼差しのままリンク外へ退避する羽生選手
(以下「結弦くん」とします)の姿を見て、
殆どの人は「これはこのまま棄権だろう」と思ったはず。


しかし彼は再びリンクに立った。
それどころか、4サルコウ・4トウループ(ともに転倒したが)にも挑み、
4分半の演技を完遂して2位表彰台を獲得してみせた。
しかも、5度の転倒を喫したにもかかわらず、TES(技術点)は11選手中2位。
http://www.isuresults.com/results/gpchn2014/SEG002.HTM


その姿に、多くの人が賞賛と感動を口にした。
だが、俺が個人的に抱いたのは、
「感動」ではなく「恐怖」「戦慄」だった。


衝突直後、リンク上に倒れ込み、仰向けになった結弦くんは、
時折ビクンビクンと反射のように身体を痙攣させているように見えた。
そして立ち上がった後も、何度か崩れ落ちそうになっていた。
その様からして、恐らく脳震盪も起こしているだろうなと思った。
(これはあの中継を見ていた人なら、多くの人がそう思ったのではないだろうか)

にもかかわらず、彼は棄権という選択肢をとらなかった。
顎の絆創膏に血を滲ませ、頭にはテーピングをぐるぐる巻きにして、
確かめるかのように3アクセルや4トウループを跳んだ。

それを、心の底から「怖い」と思った。
「頼むからやめてくれ!」と、届かないと思いつつも願った。

「セカンドインパクトシンドローム」については不勉強にして知らなかったが、

 羽生も香川も…スポーツ選手に多い脳震盪。怖いセカンドインパクト症候群とは?(もこすく)
 http://mocosuku.com/201411104505/

それを抜きにしても、あの状態で演技するなんて
ムチャ以外の何ものでもないと思ったから。


だから、結弦くんが演技を始めても、
ひとつジャンプを跳ぶたびに、胸の奥でざわざわするものが
どんどんふくらむばかりだった。

演技後半、3アクセル-ハーフループ-3サルコウのコンビネーションを
決めた時には「すげえ!」と思ったが、
それは感動というよりも、むしろ驚嘆の気持ちだった。
そして、演技が終わった瞬間の結弦くんの表情を見て、
胸に湧いたのは「戦慄」の感情だった。

あんな状態でもなお演技をしようというその気力は
いったいどこから湧いてくるのか。
GPシリーズなんて、ぶっちゃけ「失っても惜しくない」大会なのに、
そこまで身を削る必要があるのか。
そんなことを考えながら、この「恐るべき19歳」に対して、心底戦慄した。



昨季、GPファイナル・冬季五輪・世界選手権の3冠を制した
「覇王」として、誰にも恥じることのない演技をしたい、
──結弦くん自身、そういう想いがあったのだろう。
(それに類する発言は、これまでたびたびしているし)

しかし、「3冠王者としての姿勢」を見せるということは、
あんな傷だらけで演技を強行するということではないはずだ。
時間が経っても、やはりその気持ちは拭えない。

一旦は棄権を選択していたハンヤンすら、
結弦くんの姿勢に感化されたかのように、演技することを選んでしまった。
(その結果は、やはり振るわないものであったが)

「あれだけの事故を起こしても演技を続ける」という前例を、
ふたりはつくってしまった。
それが、後に続く世代の選手に、変な影響を与えなければいいが…と、
どうしても心配になってしまうのだ。



Twitterでも書いたが、
真の勇者なら「退く勇気」も持ち合わせているものだと思う。
ただ突撃するだけなら、ドン・キホーテと同じだ。
今回の結弦くんの選択は、「3冠王者としての矜持」を示すための行動としては
やはり間違いだったと思わざるをえない。
もっと有り体に言ってしまえば、単なる「蛮勇」だ。

選手生命も人生も、この先ずっと続いていくものだ。
だからこそ、この1戦で生命を投げ出すかのようなマネはしてほしくなかった。
「命懸け」っていうのは、そういう腹づもりでコトにあたるという
心持ちの問題であって、本当に生命を擲ってしまっては元も子もない。
「死んでもいい」なんて思っても、ほんとに死んだら夢の続きは見れないのだから。

だから、俺は今回の結弦くん(とハンヤン)について、
「あれだけの負傷をしているのに演技を強行した」という選択を、決して賞賛はしない。
(演技そのものは、満身創痍で滑りきったという点で、素直にすごいと思うが)

「覇王の蛮勇」は、これっきりにしてほしいと切に願う。



…しかし、ただ言いっ放しでもアレなので、
今後の対策についてシロウトなりに考えてみたい。

今回、結弦くんの応急処置にあたったのは、アメリカチームのドクターだったが、
そのニュースを聞いた時に、正直驚きを禁じえなかった。
仮にも世界を転戦するシリーズ戦なのに、
各国のドクターチームに対処を委ねるしかないという、その医療体制に。



今後、同様の事象が発生した時に、
責任を持って選手の治療を行い、その上で出場可否をジャッジできる
統一医療チームが必要なのではないかと思った。

MotoGPにおいては、「クリニカ・モビーレ」という移動診療車が
シリーズ全戦(特にヨーロッパラウンド)に必ず帯同しており、
負傷した選手やスタッフは、まずそこで一次治療を受ける。
本格的治療が必要になった場合は、そこから大きな病院まで搬送される。
また、メディカルチェックの結果をもって、レース出走可否を判断する場合もあり、
選手の健康と生命を「最前線」で守っている存在といえる。

この「クリニカ・モビーレ」のような存在(となる医療チーム)が、
フィギュアのGPシリーズにもあったらいいのではないだろうか。


理想論ではあるが、以下のようなことを考えてみた。

・担当医師は、ISUが自ら選任するか、
 もしくはGP開催国のスケート連盟に推挙してもらう形にして、
 それらの医師によってチームを結成し、ファイナルまでの全戦に帯同する
・チームの中には最低1人のメディカルディレクターを置き、
 負傷した選手の出場可否のジャッジも行う
・メディカルディレクターによる出場可否のジャッジは、
 選手の出場意思に優先するものとする


この体制が軌道に乗れば、世界選手権をはじめとするISUチャンピオンシップにも
同じ医療チームを派遣し、ISUの責任下において選手の健康と安全を確保する、
…という流れにしてほしいと思う。

仮にこういうシステムを構築するにしても、実際には困難だろうとは思う。
(医師免許など、様々な「壁」があるはずだから)
それでも、何もしないよりはマシなはずだ。


日本スケート連盟も、今後のドクター派遣について検討を始めていると聞く。

 羽生の悲劇で連盟動く 医療態勢改善へ…遠征にドクター帯同検討(スポニチアネックス)
 http://www.sponichi.co.jp/sports/news/2014/11/10/kiji/K20141110009257750.html

関係各位が、今回の事故をきっかけに、
選手の身を守るための方策について、真剣に考えてくれればいいなと思う。
 
posted by mak.kanz@wa at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | フィギュアスケート | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする